夏の朝にキャッチボールを

問わず語り

ミートはニートだった。

ついでに僕もニートだった。

突然ですが僕の友人のミートの話をしよう。

ミートは例えるならサイコパスなジョナサン・ジョースターの様な男である。

なにをするだ

ジョナサン・ジョースター。

ご存じだろうか?

僕が一番好きな漫画であります。

”ジョジョの奇妙な冒険”第1部の主人公。

身長195cmの英国紳士でありタフガイ。

初恋の女性のファーストキスをディオという同居人にズキュゥゥゥンと奪われ、腹いせに

その同居人の股間を丸太の様な足蹴りで潰し

報復に犬を殺され、自分の父親まで毒殺されそうになった腹いせに

その同居人の股間を丸太の様な足蹴りで潰し

親の解毒薬を探すために何故かスラム街に、しかも何故か単身で赴き

解毒薬の在りかを聞き出すためにその街の住人の股間を丸太の様な足蹴りで潰し

その後も数々のゾンビ、歴史上の英雄、吸血鬼になった同居人等、数々の股間を丸太の様な足蹴りで潰し、死んでいったというフィジカルマックスのクソマッスル英国紳士である。

そう、これがジョナサン・ジョースター

これがジョナサン

ミートの紹介というより、ジョナサン・ジョースターの紹介になってしまったが。

まぁ、ミートというのは、そのジョナサンのフィジカルと思考回路をそのまま日本人にしたような男である。

そう、あと、サイコパスである。

そんなちょっとしたミスで自分の股間を再起不能(リタイア)させられる危険性を持った友人と出会ったのは、僕が中学校のときだった。

特にドラマティックな出会いではない。

ただ単に同じ野球部だった事から友人関係が始まった。

我が野球部は超がつくほどへなちょこチームで

  • バットを振れば当たる確率は極めて0に近い
  • ノックをすれば二度とボールがホームベースに戻る事はない
  • やる気がない
  •  試合になればピッチャーはファーボールを出しまくり、押し出しでコールドゲーム寸前の得点をプレゼントするサービス精神を持つ
  • 試合当日にエースピッチャーとその他数人が試合をサボって釣りに出かけてしまってメンバーが揃わない

などなど、エキセントリックな手法で野球をエンジョイする部員たちに対して

顧問の教師も、もはや諦めていたのだろうか。

練習はそんなに厳しくなく、結構まったりした部活だった。

ちなみに自慢ではないが、試合では一度も勝った事がない。

そんな中、ミートはこの絶望的な野球部のキャプテンを務めていた。

冒頭でさんざんミートの悪口を言って悪印象を与えてきたが

実物のミートはそんなに悪い奴ではない。

ちょっと恥ずかしいから僕が悪く言っていただけだ。

むしろ、満場一致でキャプテンに選ばれるほどの人望を持っていた。

そんな素晴らしい人望を持っていたが・・・

ポジションはベンチだった。

そう、ミートはニートだった。

それでも、練習中、試合中。

ちょっと僕がヘバってるのを察して、元気を出させるためだろうか。

「さぁ、行こうか」と背中を叩いてくれるミートが僕は大好きだった。

夏休みにもなると、午前中はふわっと練習して、午後からは同じ野球部の

友人と遊びに行くような夏休みだった。

良くミートの家にも遊びに行った事がある。

2人でテレビゲームをして、ミートは問答無用で裏技を使いまくり、初めてプレイする僕を必殺に来たり。

かと思えばミートがプレイするチョコボの不思議なダンジョンを延々と横で見させられたり。

文章にするとすんげーつまらなさそうだけど。

今でも思い出せるくらい鮮明に覚えているので、当時の僕からしたら本当に楽しい夏休みだったと思う。

最後の試合は初戦で負けた。

ドラマなんて起こらなかった。

最後のバッターは僕だった。

全然頑張ってこなかったくせに

試合が終わったら僕は泣いていた。

横を見たらミートも泣いていた。

でも、ミートはそれでもチームメイトみんなの背中を叩いて励ましていた。

それから中学を卒業してからたミートと会う機会は減っていった。

全然違う高校に通ったからだ。

持ったばかりの携帯電話で、たまたま会ったミートと電話番号交換しただけで特に会う機会は無く。

そんな関係のまま何年もたった。

20代前半だったと思う。

夏の日の、しかも早朝の事だった。

突然、ミートから電話が来た。

「突然だけどたかぴ!今日、会えない?」

県外で仕事をしているという噂だけ聞いていたので、突然会おうと言った事に僕はびっくりした。

何がビックリしたかって、めっちゃド平日だったのだ。

「え?仕事はどうしたの?」

と僕が聞くと

「色々あってさー、仕事今してないんだー」

そう、なんと、この時

ミートはニートだった。

ちなみに僕はその誘いに対して。

「うん、全然いいよ!」

と快く答えた。

なぜならbecause(なぜならなぜなら)

僕もニートだったからだ。

「じゃあさ、突然だけどキャッチボールしよう!

昔の、ほら、中学校の時に練習してたグラウンドでさ!」

ミートが指定してきたグラウンドに、中学時代の自転車ではなく、マイカーで向かう。

久々に会うミートは、昔と変わらずジョナサン・ジョースターのようなフィジカルマックスのクソマッスルな男だった。

その後、ミートとしばらくキャッチボールしながら話をした。

彼がなぜ仕事を辞めたのか。

その時の思い。

お互いの将来。

「あいつは今、でっかい企業に入ったらしい」

「あいつは結婚したらしい」

「なのに僕達は夏の平日の朝から、いったい何やってんだろうね」

僕が20代前半の頃に抱えていた悩みや不安というのは、なんというか、漠然とした不安で。

先が長い分、明るい未来の可能性を夢見るのと同じくらい

暗い未来の可能性も想像してしまう。

そんなコインの表裏みたいな未来に、僕は恐怖してた。

ミート自身、つらい事があって今、この町に帰ってきている。

そんな中でも彼は前向きで、昔と変わらず明るく僕を励まして

ネガティブだった僕の心を少しだけ救ってくれた。

最後の試合の時もそうだ。

ミートは自分が涙を出しながらも。

最後まで他のチームメイトを励ましていた。

僕らのキャプテンなのだ。

「これで最後の1球ね!」

とミートが投げたボールはイレギュラーバウンドし。

それを負った僕は、グラウンドの端っこまで走る羽目になった。

振り返り、ミートの方を見ると

彼の上には真っ青な夏の空が広がっていて

これからの不安が少しだけ吹き飛んだような気がしたのだ

できることならば 何だってできる

なれるものならば 何にでもなれる

説明ならできないけど

ある日急にわかることがある

真面目なふりして つまらないことで

悩んだふりする たまにゃ面白い

なんだかんだ気分次第

自由になら一秒でなれる

夏の朝にキャッチボールを

寝ぼけたままナチュラルハイで

幸せになるのには別に誰の許可もいらない

(ザ・ハイロウズ 夏の朝にキャッチボールを)

キャッチボールが終わり

ちょっと僕がヘバってるところに

「さぁ、行こうか」と背中を叩いてくれるミートが

昔と同じ、ユニフォーム姿に見えた。

このキャッチボールがきっかけでまた仲良くなり

今になってもこちらに里帰りの際には絶対に会ってくれるミート。

本当に人生の友人だと思っています。

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